こんにちは!一週間に一冊、おすすめの本を紹介していくコーナーです。

(前回はこちら)

今回ご紹介するのは『だいちょうことばめぐり』朝吹真理子/花代(2021,河出書房新社)です。

対象目安:中学生~

 

『きことわ』で芥川賞を受賞した作者によるエッセイ集です。

タイトルの「だいちょう」とは歌舞伎の脚本である「台帳」のことで、歌舞伎の演目にまつわる単語が各話にかならずひとつ入っています。

日々のこと、家族のこと、ごはんのこと……。つつましやかな些事を、作者は匂い立つような美しい日本語ですらすらと書き留めていきます。

なにより特徴的なのは「五感」に関する記述の多さ。とくに味覚の描写がずば抜けています。

……薄緑色の梅蜜がつやつやにかかったかき氷で、こんもりしているので、匙をさすと、はじから氷がこぼれる。昔のかき氷機は、刃の角度が絶妙で新雪のようになる、ときいたことがあったけれど、たしかに雪みたいにやわらかい。青梅の香りと蜂蜜の、甘いような酸っぱいような味がした。ぬめりのある果肉がこまかくのっていて、それが氷といっしょにとける。(本文より引用)

じんわりととろけるような、滋味あふれるやさしい日本語。あたたかいお茶とお菓子といっしょに楽しみたい一冊です。